Oh 脳《069》NIH シンドロームを知っていますか

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NIH シンドロームを知っていますか

《監修》小泉ひよ子とタマゴ倶楽部
第0版♪1988/03/30

セミナーの枕で紹介した小ネタ集です。息抜きや話題作りにどうぞ (^.^)


「NIH シンドロームを知っていますか」こんな話も、いまどきの SE には通用しません。「知っている」と言っても、その言葉を知っているから、傍で見た経験がある、自分も経験した…まで、さまざまです。
かつて(90年代前半)セミナー等で、NIHCL(C++ クラスライブラリー)の紹介をするときの枕に「NIH と言っても、NIH シンドロームのことではありませんので(笑)」このオープニングジョークで笑いを取れたものですが、今なら、シーンと静まりかえることでしょうね。
セミナーの枕でジョークを披露するのも、ひとつは会場の雰囲気を和ませるためと、もうひとつはどれくらいの人が笑えるか(知っているか)を把握するためです。本題に入ってから(誰が笑ったかも含めて)話題を選ぶときの参考にします。私の場合、同じ講義をしても、毎回、取り上げる話題は異なります。受講者の反応(状態)を見て題材(メソッド)を選ぶからです。プログラミングと同様に、セミナーでもオブジェクト指向を実践しています。受講者(インスタンス)の存在を無視して、同じ内容の講義(関数呼び出し)をするのは容易いのですが、オブジェクト指向の講義をするだけでなく、講義そのものをオブジェクト指向で実践しない手はありません。シナリオに沿った講義がお望みなら、受講者ならずとも、むしろ Peachy's にお願いしたいくらいです。
一度だけ重複して受講された方がいた(タイトルは変わっても同じ話題)ので、事情を説明したのですが「最後まで受講します」となりました。アンケートには「同じ話題で違う話が聞けて良かった」とあったので、内心ホッとしたものです。
閑話休題。NIH シンドロームを知らない世代と言っても、今では状況が異なります。いまどきの SE なら、何か便利なフレームワークがあると、すぐに飛びつきます。私達の頃は「それは信用できない」とばかりに、それ相当のものを自作したものです。
NIH シンドロームは、再利用が浸透しない現状に、皮肉を込めた比喩でもありました。確かに「何でも自分たちで作らないと気が済まない」のは考えものです。しかし、インストールすると「その中身を吟味せずに無条件に受け入れる」のも考えものです。
オープンソースを導入するのも「無償で入手できるから」というのが大半でしょうか。私達の頃は、オープンソースではないばかりに、マニュアル等を頼りに、それ相当の機能を実現する「究極の」リバースエンジニアリングを実践したものです。ようやく、ソースがオープンになるという恩恵を受けながら「ソースコードを読み耽りアレンジを加える」という文化が廃れてしまうとしたら、何とも皮肉なものですね。
かく言う私も、軽度の NIH シンドロームでした。いざ自作してみると、やはり本家には及ばないと感服したり、本家より良いと悦に耽ったり、そうした日々もありました。
この業界ならではの「NIH シンドローム」が、巷の SE の間で死語となりつつあるのは、自分たちで作らないと気がすまない(能動的)からと、自分たちでは作れない(受動的)からと、ある意味では喜ばしくもあり、ある意味では悲しくもありでしょうか。□